麻布大学

Labo Diary Vol.006

Vol.006動物が本来もっている
優れた潜在能力を引き出す

獣医学部 獣医学科 産業動物内科学研究室 恩田賢先生

①斬新で新しく、常にユニークな研究で 動物と人間の暮らしをより豊かにしていく

 産業動物内科学研究室が行う研究のモットーは、斬新で新しく、常にユニークであること。獣医学の殻に閉じこもることなく、柔軟な発想で、時には少し非常識と思われることでも、決して恐れず研究に挑んでいく姿勢を大切にしています。主な研究対象となるのは、人類との1万年近い関係を経て、最も身近で多くの恵みを与えてくれる動物となった、牛や豚です。

 これらの産業動物がもっている優れた潜在能力を十分に引き出し、健康な動物の生産を通して、人間の暮らしを豊かにしていく研究を行っています。また、実際に動物を診療しながら、臨床の知識や経験を深めることと並行して、研究に必要な考え方やスキルを身につけられるのも、本研究室ならではの学びの特長です。

②動物にとって年を重ねることの価値とは? 「加齢」をテーマにその可能性を探究

 研究テーマのひとつが、「産業動物の加齢に関する研究」です。産業動物としての牛は、寿命を全うした場合、30~40歳まで生きるといわれていますが、現在の日本の乳牛は6~7歳で淘汰されてしまいます。これには、肉やミルクの安全性や生産性を重視する人間の都合が大きく影響していますが、年齢を重ねた牛には、まだ解明されていない能力や価値が存在するかもしれません。

 そこで産業動物内科学研究室では「Animal aging project」を展開。動物が加齢していく過程で身につける特性や、加齢した状態でなければ発動しない能力、病気への抵抗性などを調べていくことで、人間にとっても動物にとっても、より良い未来の可能性を模索しています。

③ミルクに含まれるタンパク質 PTHrPに秘められた謎と可能性を解明

「反芻動物の泌乳(ひにゅう)生理に関する研究」も、重要な研究テーマのひとつです。 乳牛は、長年の育種改良と飼養管理の改善により、子牛一頭を育てる以上に大量のミルクを出す(泌乳)ようになりました。このミルクの中には、副甲状腺ホルモン関連タンパク質(PTHrP)という物質が大量に含まれていますが、その理由はよくわかっていません。

 現在のところPTHrPを子牛や乳児が摂取しなくても、大きな影響は認められていませんが、これを分泌している母親のカルシウム恒常性の維持に重要な役割を果たすことが知られています。このように、いまだ多くの謎に包まれたPTHrPが、牛の胎子や乳子の発育、母牛の健康にどのような役割を果たしているのか、多面的な視点から研究を進めています。

④産業動物内科学研究室では、ほかにもこんな研究に取り組んでいます。

 分娩した乳牛は、ミルクとして大量のカルシウムを体外に分泌することから、低カルシウム血症になって起立できなくなってしまう、「乳熱」という病気にかかることがあります。また、牛は偏食で草ばかり食べること、体重は人間の10倍近くあるのに、血糖値は半分程度などという、生理学的・解剖学的に人とは大きく異なる性質をもっています。

 こうした牛の代謝生理学を理解していくことは、牛の疾病を防ぎ、牛の隠された能力を引き出すだけでなく、人におけるインスリン抵抗性の発現機序や腫瘍の発生メカニズムの解明にも役立つことが期待されています。このほかにも、牛の骨代謝、豚が発症する脚弱症など、産業動物にかかわるさまざまな研究にも取り組んでいます。

産業動物内科学研究室

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