生命・環境科学部 食品生命科学科 食品生理学研究室 武田守先生
食物には栄養素としての働きだけでなく、おいしさを満足させる「感覚機能」、病気の予防や回復などを助ける「生体調節機能」が備わっています。食品生理学研究室では、このなかでも食物がもっている「生体調節機能」に注目。食品に含まれるさまざまな化学成分が痛みを緩和(痛緩緩和効果)する可能性と、その神経生理学的メカニズム、つまり痛みが脳に伝達される仕組みについて解析しています。
主な研究方法としては、「野菜や果物など身近な食品に含まれる化学成分」や「市販されている健康食品の成分」がもっている痛緩緩和効果について、行動学、電気生理学、免疫組織化学的手法を用いた動物実験を行い、検証していきます。
そもそも痛みには、脳が身体の異変を察知するための警告信号としての生理的意義があります。ただし、通常よりも強い痛みを感じてしまう「痛覚過敏」、通常では感じない刺激で痛みを感じてしまう「アロディニア」のように、本来の意義から外れた、生活の支障となる痛みも存在します。
現在、本研究室が取り組んでいるのは、これらの痛みを解消する鎮痛剤の研究です。特に食品成分には、通常の治療薬のような副作用がないことから、より安全性の高い治療効果が期待できます。具体的には、歯科矯正の際に発生する痛みや不快感の緩和に効果を発揮する消炎鎮痛薬のように、現代西洋医学を補う医療(補完代替医療)の開発をめざしています。
疼痛緩和効果があると考えられている化学成分は、現在、いくつか発見されています。たとえば、ぶどうの種子や赤ワインに含まれるポリフェノールの一種「レスベラトロール」には、痛みを緩和する効果のほかにも、長寿遺伝子の活性化、アルツハイマー病・がん・動脈硬化に対して予防効果があることが示唆されています。
ほかにも、コーヒーに含まれる「クロロゲン酸」、ブロッコリーやホウレンソウなどの緑黄色野菜に含まれる「ルテイン」、お茶の葉に含まれる「テアニン」、魚の油に含まれる「DHA」、大豆に含まれる「イソフラボン」などの化学成分が知られており、研究が進められています。
化粧品・健康食品メーカーである、株式会社ファンケルと共同研究を行っているのが、本研究室の特長です。そのため、市販の健康食品成分の機能性を卒論研究として選択することができます。
最近では、株式会社ファンケルの機能性表示食品「楽のびグルコサミン」や、緑黄色野菜に含まれる 食品成分『ルテイン』の、炎症性疼痛を緩和するメカニズムが神経生理学的に解明されました。食品成分である「ルテイン」が、市販の抗炎症性鎮痛薬の作用部位と同等の部位に作用し、痛みを緩和できることが明らかとなり、補完代替医療に貢献する可能性が示唆されました。