生命・環境科学部 臨床検査技術学科 病理学研究室 荻原喜久美先生
地球温暖化や世界規模で進んでいる急速な砂漠化にともない、近年、その発生頻度が増加している黄砂。日本にも、毎年春になると中国大陸から飛来する黄砂粒子および、その主要成分であるシリカ粒子の影響が大きな問題となっています。
特に、大気汚染が進んでいる中国の上空を通過した粒子の周囲には、さまざまな汚染物質が付着し、これを取り込んでしまう可能性が示唆されていることから、その毒性にも注目が集まるようになってきました。
病理学研究室では以前より、こうした黄砂およびシリカ粒子に注目し、さまざまな実験を行ってきました。たとえば、肺のマクロファージに着目し、ラットに黄砂およびシリカ粒子を投与する実験では、投与した粒子の影響によって炎症性サイトカイン・活性酸素種といった、炎症を引き起こす物質が肺の中に産出されることが確認されています。
さらに、大隅良典東工大栄誉教授がノーベル生理学・医学賞を受賞したことで注目されている、ミトコンドリア障害におけるオートファジーも、この実験によって示唆されました。
また、日本における死因のトップががんであることはよく知られていますが、その中でも最も死亡率が高いのは「肺がん」です。そして、黄砂・シリカ粒子にさらされた場合、肺腺腫・肺がんなどの腫瘍発生も報告されていることから、今年度より、ラットを用いて黄砂・シリカ粒子の長期毒性についても検討を行っています。
現在は、黄砂・シリカ粒子をラットに投与し、6、12、18か月後に、がんなどの腫瘍の発生が認められるのか、実験の真っ最中。毎週1回、進捗状況報告のためのプレゼンテーションを行いながら、日々実験に励んでいるところです。
動物性食品などに多く含まれる亜鉛は、高齢者が不足しがちな栄養素として問題になっています。また、亜鉛欠乏は、味覚障害を引き起こすだけでなく、免疫機能の低下などによって抵抗力が弱まり、細菌やウイルスなどに感染しやすくなる、あるいは細胞組織の修復が遅くなるなどの症状をもたらします。
そこで低亜鉛飼料を与えたマウスを実験に用いることで、低亜鉛状態の人間が黄砂を吸入した場合、どんな肺傷害のリスクがあるのかを検討。その結果、亜鉛が欠乏した状態で黄砂を吸うと、せきや呼吸困難といった、持続的な間質性炎症が起こりやすくなる可能性が示唆されました。