生命・環境科学部 食品生命科学科 食品分析化学研究室 良永裕子 先生 齊藤千佳 先生
食品は生産、加工、保存などの方法の違いによって、味に変化が起こります。食品分析化学研究室では、これらの方法の違いが食品の味にどのような影響をおよぼすのかについて、さまざまな手段を用いて分析。その成果をもとに、食品の味の向上をめざしています。
研究内容としては、主に味に深くかかわっている遊離アミノ酸、核酸関連化合物をはじめ、機能性成分、揮発成分、味に影響するグリコーゲンなどの化学成分を、高速液体クロマトグラフィ(HPLC)などの機器を用いて分析。このほかにも、テクスチャ(食感)や色味なども味の要素として科学的な数値で具体化したり、実際に食品を味わってその品質を調査する官能評価を行ったりしています。そして、これらの知見をもとに、食品がよりおいしくなる条件を見つけ出し、食品の味の付加価値化に寄与することをめざしています。
いくつかの研究テーマのなかで、近年、最も注目されているのが、「ケイ素による食品(鶏肉・鶏卵・野菜)の味への影響」です。ケイ素と酸素が化合したケイ酸化合物(二酸化ケイ素)は「シリカ」と呼ばれ、ミネラルの一種であるケイ素を水溶性にした化合物です。ケイ素は骨密度の維持、コラーゲン形成などにかかわる生体の微量必須元素で、近年では健康食品、化粧品などの分野での有用性に関心が寄せられています。そこで食品分析化学研究室では、その有用性に科学的な根拠を見出す目的で、ケイ素(シリカ)含有飲水を鶏に与えて飼育したところ、胸肉・ササミ肉や鶏卵のうま味が向上することを発見しました。
現在、この研究成果に注目した北陸テクノ株式会社と連携し、もみ殻の燃焼を最適化することで得られる植物由来シリカを使ったケイ素配合飼料の開発が進行中です。経済産業省の補助事業として採択された産学連携活動の一環で行われたこの「もみ殻循環プロジェクト」は、SDGsの推進に貢献している点でもメディアから注目を集めています。
「野菜の品質保持におよぼす大根中の揮発性成分の効果」という研究テーマにも力を入れています。この研究では、大根のおろし汁から揮発する抗酸化性物質に野菜を暴露させることで、褐変(黒ずんで赤茶色に変化すること)がどのくらい抑制されるのか、微生物試験や味への影響も含め調べています。具体的には、近年需要が伸びているカット野菜のなかから、カットレタスを選んで効力を確認したところ、抑制効果を証明することができたため、今後は実用化に向けたさらなる研究を進めていく予定です。
これ以外にも、切り干し大根に代表される(半)乾燥野菜のうま味の分析、二枚貝(マガキ、アサリ、シジミ)の生産・保存方法による味の違い、保存条件による食肉の味への効果といった研究に取り組んでいますが、いずれのテーマにおいても、ストレートに食品の味の向上をめざしているのが本研究室の特長といえます。
食品の味の向上以外にも、食品の品質を保持するための保存条件の検討や加工方法によって生じる危害要因の分析も行っています。
なかでも、獣医学専科として発祥した麻布大学ならではの研究といえるのが、ドッグフードに含まれるアクリルアミドについての研究です。アクリルアミドは、炭水化物を多く含む原材料を高温(120℃以上)で加熱調理したときにできやすくなる化学物質で、おそらく発がん性があるといわれています。そこで本研究室では、市販されている50種類以上のドッグフードを調査し、どのくらいの量のアクリルアミドが含まれているのか、フードの調理加工方法による違いを調べ、犬の健康と発がんリスクについて考察しました。