獣医学部 獣医学科 寄生虫学研究室 平健介先生
寄生虫病の多くは、土壌に存在する寄生虫の卵や幼虫が感染源であり、これらを摂取した動物が発症します。土壌と接して生活する産業動物(牛・馬・豚・鶏など畜産業にかかわる動物)や伴侶動物(犬・猫に代表されるペット)は感染する機会が多く、生死にかかわる場合もあることから、寄生虫学は獣医学の中ではとても重要な分野です。
そこで寄生虫学研究室では、臨床獣医師や食肉衛生検査技師といった、現場の最前線で活躍している先生方に協力をあおぎながら、獣医療現場における寄生虫病の発生状況や、国内および世界の各地から発信される最新情報を常にとらえていくことで、寄生虫病の診断・治療・予防にかかわる実践的な知識・技術を探究し、身につけていきます。
寄生虫と宿主の相互関係を動的(ダイナミック)にとらえて調べていくのも寄生虫学研究室の特長です。たとえば、寄生虫学のなかには動かない標本を観察し、その形態を調べていく研究分野もあります。その点、本研究室ではバイオリスクについて十分に考慮しながら、生身の動く寄生虫を獣医療現場や野外の動物舎などで確保し、これを教材としながら研究。また、どのくらいの数の寄生虫が感染すると宿主動物の発症率や死亡率が高まるのか。どういった経路で寄生虫はヒトや動物の体内に侵入してくるのか。こうした寄生虫の動的な生態や病原性について明らかにしていくのが、寄生虫学研究室の大きな魅力といえます。
そして、これらの研究をとおして、食の安定供給にかかわる家畜衛生や、人の健康のための公衆衛生を向上。さらには、世界規模で発生している食糧問題を解決するため、現在、注目されつつある昆虫食の増産に向け、寄生虫がどのような影響を与えるのか考察を深めていきます。
現在、寄生虫学研究室で取り組んでいる具体的な研究テーマは主に三つあります。
ひとつめは「胃腸内寄生原虫による寄生虫病の定量的検査法の開発」です。これは世界的に問題となっているコクシジウム病とクリプトスポリジウム病という、子牛が感染する寄生虫病に関する研究で、これらの病気を診断するための簡易な検査法を新たに考案・開発することに成功しました。
ふたつめは「ゴキブリに寄生する線虫類の同定と宿主寄生虫相互関係」です。この研究により、日本国内に生息するチャバネゴキブリに線虫が寄生していることをはじめて発見。さらに、線虫の寄生がチャバネゴキブリの生存に有利にはたらく、つまり線虫に寄生された個体の方がより長生きする可能性があることがあきらかになりつつあります。
三つめの研究テーマが「組織寄生性線虫の伝播経路の解明」です。たとえば、犬や猫に寄生する回虫の卵は、糞と一緒に公園の砂場などに排泄されると、そこで成熟。砂をさわった手などを介してヒトにも感染し、筋肉、内臓、脳などに障害を起こすことはわかっていましたが、これらの回虫の生活環(生物個体が発生を開始してから次世代の個体が発生を開始するまでのサイクルのこと)には不明な点が残されていました。
そこで寄生虫学研究室では、ヒトにもくる線虫類の伝播経路をキーワードに研究を展開。その結果、猫回虫の待機宿主(寄生生物が最終的に寄生する終宿主に着くまでの間に、仮の宿として発育しないまま寄生できる相手の生物)としてミミズが重要な役割を果たしていることがあきらかになってきました。