獣医学部 獣医学科 衛生学第一研究室 河合一洋・篠塚康典先生
牛の乳房炎は、乳房に微生物が侵入し、乳腺に定着して炎症を起こすことで発生しますが、その要因が多岐にわたることから治療や予防が難しい感染症です。また、乳牛がかかる疾病のなかでも最も大きな損害を与える疾病で、経済的損失は国内全体で年間800億円。
酪農家にとっての経済的な損害や、良質の生乳生産という人類の食の問題という観点はもちろん、動物福祉という観点からも、その治療と予防は世界規模で大きな課題となっています。
衛生学第一研究室では、大動物臨床歴20年以上を有する2名の教員のもと、その解決をめざしてさまざまな研究に取り組んでいます。
乳房炎はさまざまな要因によって発生することから、予防に力を注いでいくことが急務となっています。そこで衛生学第一研究室では、長年の経験から有効な解決手法を模索することで「乳房炎防除管理プログラム」を確立し、その普及に努めています。
さらに近年では、獣医療も多様化にともない、抗菌薬の薬剤耐性に対する関心が高まっていますが、乳房炎の治療においても例外ではありません。薬剤の偏重使用による耐性傾向も指摘されていることから、より効果的な治療を行うため、原因菌の薬剤感受性調査やバイオフィルムと薬剤耐性の関係、ラクトフェリンなどの生理活性タンパク質や微酸性電解水の治療への応用など、幅広い研究を行っています。
また、本研究室に所属する学生たちは、毎日、酪農の現場から送られてくる乳房炎乳汁の細菌検査を行うことで、検査手技のスキルアップを図っていきます。この検査は、基本的に目視や匂いといったアナログな方法により細菌の同定を行いますが、こうしたスキルは現場で治療を行う際に必要となります。
もちろん、最新鋭の機器を用いた実験なども行っていきますが、日々、五感を使った検査をくり返していくことで、卒業後、現場に臨んだ際に活用できる力を身につけていきます。学生たちが取り組む研究も基礎研究から臨床応用研究までさまざまですが、そうした活動をとおして、生産現場に寄り添える獣医師を育てていくことをめざしています。
国内の乳房炎発生低減を実現するため、衛生学第一研究室に拠点を置くバーチャルな組織「麻布大学乳房炎リサーチセンター(AMRC)」を設置しました。AMRCではラボ研究だけでなく、地域密着型の乳房炎防除支援を展開していますが、この活動には学生でも希望すれば同行が可能で、学内の授業とは一線を画した実践的な経験を積むことができます。
ほかにも、スターバックス コーヒー ジャパン株式会社、株式会社メニコンと共同で、コーヒー豆かすをサイレージ化(乳酸発酵)し、牛の飼料として活用する事業に当研究室が研究ベースで関わり、コーヒー豆かすサイレージ給与後に牛の抗酸化作用が上昇し、乳中の体細胞数を下げることを証明いたしました。この『コーヒー豆かすリサイクル(牛の飼料化)の取組』は、農林水産省補助事業として行われた「第2回食品産業もったいない大賞」を受賞しており、さらなる発展も期待されています。