生命・環境科学部 食品生命科学科 食品衛生学研究室 三宅司郎・大仲賢二先生
国際がん研究機関(IARC)が、人に対する発がん性が認められる化学物質として、世界中で厳しく規制しているのが、カビ毒の一種であるアフラトキシンです。この物質は、日本にはほとんど存在しませんが、さまざまな輸入食品から検出されます。小麦やトウモロコシなどの穀類のほか、大豆やコーヒー豆、ピーナッツ、香辛料など、生活に欠かせない輸入食品はアフラトキシンに汚染されている可能性があるため、輸入時の検査が欠かせません。
食品衛生学研究室が研究テーマとしているのは、こうした食品衛生や公衆衛生にかかわる危害要因の分析化学的技術の開発で、カビ毒のほか、農薬、食物アレルゲン、食中毒細菌、ウイルス、がん細胞など、分析対象は多岐にわたります。
特にアフラトキシンの検査に関しては、三宅教授らの研究による画期的な成果をもとに、分析機器の総合メーカーである堀場製作所の開発した製品が、現在、国内で最も使われています。では教授らが開発した検査方法のどういった点が先進的だったかというと、「抗体」という、生命が本来もっている生体防御タンパク質を活用している点です。
そもそもカビ毒は水に溶けないのに対し、抗体は水に溶けていることから、従来、これを用いた分析技術はできないと思われてきました。しかし地道な研究の結果、検査可能な抗体をついに発見。これを応用することで、これまでは検査が困難だった食品についても検査結果が出せるようになりました。
アフラトキシン以外にも、たとえば大腸菌O157やサルモネラ菌、ノロウイルスや各種農薬など、実にさまざまな微生物や化学物質について分析する技術を食品衛生学研究室では開発。見えない世界を見つめることで、見えない世界がもっとおもしろくなる研究に取り組んでいます。 また、こうした研究と大きく関連してくるのが、食品の衛生管理に関する手法として、現在、世界的に導入がすすめられているHACCPです。
麻布大学では『先端的な食のスペシャリスト』であるHACCPシステム管理者の育成に積極的に取り組んでいます。2019年には、麻布大学のカリキュラム「HACCP管理論」が、一般財団法人 食品安全マネジメント協会より「食品安全研修コース」として承認されました。これは、4年制の大学としては日本で初めてのことです。食品衛生学研究室では、HACCPシステムに適した分析技術も研究対象としています。
抗体を使った新たなイムノセンサとして、バクテリア、さらにヒトの細胞を含む動物細胞を検出する技術も開発中。この技術は世界的に競争が激しい最先端分野となっていますが、検出するたびに高価なセンサチップを使用しなければならないため、これまで実用化されていませんでした。
三宅教授らは、世界ではじめて、このセンサチップをくり返し使える技術を開発。イムノセンサとして実用化する段階に至っています。現在、これを社会実装する国のプロジェクトが進められています。当研究室ではそのプロジェクトに参画し、世界中の人に使ってもらうための普及活動を展開していく予定です。