麻布大学

対談 STUDENT × OB Vol.002

main_txt002.png動物を真に知ること

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国の機関で鳥獣害対策の研究に取り組む江口祐輔先生と、
動物行動管理学研究室の後輩にあたる動物応用科学科の夏井眞愛さんが、
学科や研究、仕事のことなどについて語り合いました。

動物応用科学科を選んだ理由

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江口 中学生のころに動物行動学の本を読んで、「動物行動学の研究者になりたい」と思いました。ところが、僕が麻布大学に入学した'80年代、日本でこの分野の研究はまだこれからという段階だったんですね。それでも、この大学には動物行動学を学べる講義と研究室があったので、環境畜産学科(現・動物応用科学科)を選びました。

夏井 私の場合、バイオのレベルから動物の個体の研究まで幅広く学べるのが、麻布大学の魅力でした。ひとくちに動物といっても、ここでは愛玩動物、実験動物、野生動物、家畜、さらに食品製造と、あらゆる研究対象が揃っているんですね。そうしたさまざまなジャンルの中から、自分の興味あるテーマを見極めていきたいと思い、それができる動物応用科学科に決めました。

江口 確かに、動物についてのあらゆる事柄を学べる環境がここには整っています。だから、動物が好きなら必ずやりたいことが見つかるはずですよ。

大学生活で大事にすべきこと

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夏井 卒論のテーマ決めも就活もこれからで、今はどちらも迷っている最中です。研究室の羊、鶏などの飼育管理を任されているので家畜にも興味もありますし、野生動物についても興味があります。先生が取り組まれているような、農作物に被害を及ぼす野生動物の行動についても研究できるので、その分野を探究してみたい気持ちもあります。

江口 僕も、研究室入ってもともと豚の研究をやろうと思っていたんだけど、いつの間にかイノシシになってしまったんです。興味の幅は広いほうがいいし、夏井さんもたくさん迷っていいと思いますよ。

夏井 それをうかがって、少しほっとしました。大学生活を通じて大事にすべきことって、先生は何だとお考えですか?

江口 まず、よく学びよく遊びってことかな。ただ、つねに「考える」ことは大事ですよ。頭の中を絶えず動かしながら、疑問と好奇心を大切にして行動していく。そう、つねに常識を疑って考える姿勢って大事になると思いますね。

研究テーマとの出合い

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夏井 先生は、どのようにご自身の研究テーマに出合われたんですか?

江口 研究室の先輩が豚を研究していて、その手伝いで祖先種であるイノシシを調べたらとても面白くて。そこからイノシシが自分の研究テーマになったんです。博士論文のテーマも「イノシシの繁殖行動」でした。ちなみに私は動物応用科学科の博士号取得者第一号なんですが、私に対する社会評価がそのままこの学科や研究室の評価につながると思っているので、つねに自分に何ができるかを考えながらより良い成果が出せるよう仕事をしています。

夏井 それは、後輩の一人として頭が下がります。専門家の先生を前に偉そうなことは言えませんが、人間が開発を抑えれば野生動物たちは今まで通りの生活を送れますよね。でも、今の便利な生活を手放すことも難しい。開発することで生態系にどんな影響が出て、どこまで人間の技術でそれを補えるのか......まずそのことについて考える必要があると思っています。

江口 そうですね。そこを考えることはとても大切です。現在、僕は農研機構※の西日本農業研究センターというところで、さまざまな鳥獣害対策の研究をしていますが、イノシシ、鹿は以前よりずっと多くの頭数が駆除されているものの、それでも農作物への被害は減っていない。それなら、原因はどこにあるのか? 人間がつくってしまった現在の環境に原因はないのか? そのあたりを考慮しながら研究に取り組んでいます。

夏井 大切なお仕事ですね。先生は、そうしたご自身の研究活動だけでなく、麻布大学をはじめ各地の大学で後進のご指導も熱心にされていますよね。私も以前、先生の『動物応用科学概論』の授業を聴かせていただきましたが、とても面白くてためになりました。

江口 それはうれしいですね。全国の野生動物による被害現場へ赴き、農家さんや県・市町村の担当者に対策についての研修を行ったり、いくつかの大学で講義を行ったりしています。麻布大学でも、客員教授として学部生と大学院生の卒論、博士論文の指導や講義を行っています。

研究が仕事につながる幸せ

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夏井 先生は、どのようなきっかけで今の仕事に就かれたのでしょうか?

江口 麻布大学でのイノシシの研究はとにかく面白かったんですが、学会などで他の大学の先生にお会いすると、「牛や豚を研究テーマにしないと仕事ないよ」ってよく冗談混じりに言われました。でも、いざ就職というときに、たまたまイノシシによる農作物被害が全国で問題になって農水省で研究者が必要になっていたんですね。だから、就職については意外にスムーズでした。ただ、研究所を建てるところから始めなきゃならなかったのでけっこう大変だったんですけど。

夏井 ご自身の研究が、そのままお仕事に直結したわけですね。でも、お話をうかがっていると、今の私たちは動物について学ぶ環境に恵まれていますが、先生のころは、ご自身で道を切り開くご苦労があったように感じます。

江口 もちろん今の研究環境は素晴らしいけれど、当時の僕らも幸せだったように思うんです。ゼロから始めるというやりがいがあったので。だから今の学生にも、いろいろな学びから自分だけのテーマを見つけ出して、ゼロから積極的にチャレンジしてほしいと考えています。

ct2_05.jpg 夏井 学科や研究室の恵まれた研究環境、そしてOBの方を含めた人のつながりを大事にして、自分の研究を進めていきたいと思います。最後に、動物行動学の研究者として、大切にされている姿勢を教えていただけますか?

江口 人間の目線だけでなく、つねに動物の目線で考えることが大事です。動物と人間の間にある問題を考えるとき、動物の素顔を知らなくてはならないんですが、そのとき動物行動学が意味を持つんですね。動物行動学の研究によって、その動物の学習能力、感覚能力、運動能力をはじめとするさまざまな能力や、行動特性、心理といったものを教えてもらうことができ、それぞれの動物の真の姿を知ることができるからです。

夏井 なるほど、よくわかりました。その姿勢を私も大事にして勉強を深めていきたいと思います。本日はありがとうございました。


※注:国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構。農水省所管で、農業に関する試験や研究を行う。

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