麻布大学

Labo Diary Vol.008

Vol.008日本で年間7000件以上発生する
アニサキスによる食中毒を解明

生命・環境科学部 環境科学科 環境生物学研究室 川上泰先生

①人間に感染する寄生虫を対象にした 専門的な研究を行う日本で数少ない研究室

 アニサキスや条虫(サナダムシ)といった「寄生虫」。蚊やゴキブリ、ネズミなどの「衛生動物」。これらの分野について学べる大学は、日本では非常に希少で、特に人間に感染する寄生虫を対象に専門的な研究を行っているのは、麻布大学の環境生物学研究室の特徴です。

 また、近年では地球温暖化の影響で、セアカゴケグモ、ヒアリのように、これまで日本では見られなかった「衛生害虫」(人間や家畜に対して害を与える昆虫やダニ類)が日本で確認されたり、寒い地域では見られなかった害虫が、北日本にも定着する現象が認められています。このように、全国規模で害虫に対する備えが必要なっている状況に対処していくために、本研究室で行っている研究は非常に重要な意味をもっています。

②遺伝子解析やさまざまな実験により 寄生虫や衛生動物への対策を検討していく

 具体的な研究方法としては、まず寄生虫学の分野では、野生動物、魚類、貝類から採取した寄生虫の形態を顕微鏡で観察。さらに、分子生物学的な手法を用いた遺伝子解析により、その種類を同定していきます。

 続いて衛生動物の分野では、食品への異物混入の原因となる、ゴキブリやその他の昆虫などについて、さまざまな条件下での発育や侵入試験を行っています。また、低温・高温環境での生存実験や、飛翔昆虫の屋内侵入に関する研究、感染症媒介昆虫のウイルス保有状況などについても調査を行っています。

③高知県の食品関連企業との共同研究で カツオ1尾から552匹のアニサキスを発見!

 人間に感染する寄生虫を対象にした研究については、2018年度より、カツオに寄生するアニサキスの調査を行っています。これまでアニサキスは、サバやサンマ、イカなどへの寄生が問題となっていましたが、近年、カツオへの寄生も問題になっています。そこで高知県の食品関連企業にご協力いただき、産地別や流通経路の違いにより、虫体の種類や寄生率、魚肉部分への侵入率などに違いがあるかについて、共同研究を行っています。

 調査の際には、学生が自分たちの手でカツオを丸ごと1匹解剖。内臓だけでなく、筋肉へ侵入し、リング状になって寄生するアニサキスを見つけます。これまでの調査では5キログラムのカツオから、最大552匹(そのうち22匹が筋肉へ侵入)のアニサキスが発見されています。

④環境生物学研究室では、ほかにもこんな研究に取り組んでいます。

 衛生動物に関する研究として、東京都内に生息するネズミの寄生虫について調査を行っています。その過程で、都内で捕獲されたドブネズミの体内から、通常は犬の腎臓などに寄生する寄生虫を発見しました。これは世界でも4例目となる珍しい症例で、「衛生動物」という学術雑誌に掲載されました。

 ほかにも寄生虫の分野の研究では、寄生虫を材料に、種々の生化学的な手法を用いることで、寄生虫に存在するタンパク質、脂質などの分析を行い、寄生現象との関係を調べています。

環境生物学研究室

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